会長就任にあたって
2025年4月1日
日本鉱業協会
会長 田中 徹也
この度、会員各社のご推挙により、関口会長の後を受けて、日本鉱業協会の会長に就任することとなりました三菱マテリアルの田中でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
当協会は、1948年に設立され、本年4月をもって78年目となります。この間、歴代会長、会員各社ならびに協会関係者のご尽力により、当業界の振興・発展を実現してこられましたことに改めて深く敬意を表したいと存じます。また、経済産業省をはじめ、関係省庁、地方自治体、ならびに労働団体などの皆様からのご支援に対しまして、改めて心より感謝申し上げます。
関口前会長は、安定的な金属資源確保、低廉・安定的な電力供給の確保、そしてリサイクル事業環境の整備が現在および将来の国益にかなうとの信念のもと、様々な施策にご尽力されました。
安定的な金属資源確保については、鉱物資源獲得競争が激化し、経済安全保障の観点からも重要性がますます高まっている状況下、その支援強化を政府や関係機関に訴えられました。特に2024年度は「減耗控除制度」と「海外投資等損失準備金制度」のいわゆる鉱業2税制のうち、「減耗控除」が適用期限を迎えましたが、精力的に関係各所をめぐって鉱業税制の重要性をご理解いただくことに注力され、3年間の延長を実現されました。
電力価格に関しては、昨今の世界情勢や円安等による燃料費の高騰で高止まりが継続する状況を踏まえ、安全が確認された原子力発電所の再稼働を含むベースロード電源の早期確保や電力代の抑制策の導入など、低廉で安定的な電力供給に向けて強く要望されました。
またリサイクル事業環境整備に関しては、東南アジアなどの諸外国との国際的なルールの整備や、リチウムイオンバッテリー(LiB)リサイクルへの技術開発支援の要請に精力的に取り組まれました。
このような前会長のご努力に対し深く感謝申し上げますとともに、私もこれまで進められてきた基本路線を引き継ぎながら、課題解決に向けて精一杯努力してまいりたいと存じます。
さて、日本経済は、歴史的高水準の賃上げとなり、名目GDPが600兆円を初めて突破した昨年の流れを受けて、「賃上げと投資が牽引する成長型経済」の実現が望まれております。来月にはいよいよ大阪・関西万博が開幕することとなり、今後も我が国の社会経済活動が一層上向いていくことを期待しております。また、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進展させていくために必要とされる非鉄金属の需要の増加に応えるべく、安定的な金属資源の確保が当業界の使命として一層重要性を増していくものと考えられます。
一方、米国において1月に発足したトランプ政権は非鉄金属を含む複数の品目への追加関税導入やその検討などの様々な政策を打ち出しており、これらの政策が世界経済に与える影響が懸念されております。その他にも、米国の動きにより新たな展開を見せ始めたロシアによるウクライナ侵攻や混沌の続く中東情勢などの様々な事象があり、世界経済の先行きを見通すことは非常に困難です。また、クリティカルメタルの安定供給を求めた国際的な競争は激しさを増し、エネルギー価格の高騰は製錬所の製造コストを圧迫するなど、当業界を取り巻く環境は厳しい状況が続いております。
このような環境下にあって、当業界としては、非鉄金属素材の安定供給と循環型社会の構築を通じて、我が国の持続可能な発展に貢献するべく、以下に掲げる重要課題を中心に取り組んでまいりたいと考えております。
第一の課題は「資源の安定確保」です。
非鉄金属は、広く日本の産業全般にて必要不可欠な素材として用いられており、GXの本格化のためにベースメタルやレアメタルの安定供給が益々重要となってきております。しかし、有望な金属資源の天然鉱床には限りがあります。その中で、資源国における課税強化や禁輸政策などの動きと共に、需要国においてはサプライチェーンを強化するための戦略的な動きが活発化しており、各国の鉱物資源確保に向けた競争は激化しております。また、昨今、資源メジャー同士の買収提案や経営統合の検討が報じられ、一部の非鉄金属においては買鉱条件が過去に例を見ない厳しい水準となる等、事業環境がより一層厳しさを増してきております。このような点に鑑みても、当業界の使命である金属資源の安定確保、素材の安定供給はその難しさと重要性が高まっていると認識しております。また、鉱山事業に関しては、その立地の深部化・奥地化による初期投資額の増大やインフレ、円安により、新規の鉱山開発・経営への参入において企業が必要とする資金や直面するリスクは年々増大しております。
こうした状況を踏まえ、当協会では、長期的な視点で積極的な海外資源開発が継続できるよう、引き続き独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)等の政府系機関の機能強化・拡充や、減耗控除制度・海外投資等損失準備金制度(海投損)の恒久化・拡充など、政府に対して一層の支援強化を訴えてまいりたいと考えております。特に2025年度末に適用期限を迎える海投損については、その維持・拡充を強くお願いしたいと考えております。資源外交については、引き続き政府と一体となって積極的に取り組んでまいりたいと考えております。
第二の課題は「電力問題」です。
当業界では、長年に亘り省エネルギー活動に向けた不断の努力を継続してきておりますが、非鉄金属という国際商品を扱っている以上、常に競争に晒されており、国際的に遜色ない価格水準での安定的な電力の確保が必要不可欠となっています。しかし、我が国の電気料金は諸外国に比べて割高であり、多量の電力を消費する非鉄金属製錬の国際競争力を押し下げている状況にあります。一方、2月に閣議決定されました「第7次エネルギー基本計画」においては、GXやDXの進展による電力需要増加が見込まれる中、我が国の経済成長や産業競争力を強化していくためにも、再生可能エネルギーや原子力といったエネルギー安全保障に寄与する脱炭素電源を、二項対立的な議論ではなくそれぞれ最大限活用していくことが重要であるとされております。国内の原子力発電所の再稼働数は、東日本初となる女川原子力発電所2号機の再稼働を含めて増加してきてはおりますが、当業界としては引き続き安全が確保された原子力発電所の着実かつ早期の再稼働を推進し、鉱業政策への要望として訴えてまいります。また、FIT制度(2022年度よりFIP)の減免措置維持・拡充や、再生可能エネルギー供給量の拡大への取組強化等について今後とも政府に働きかけてまいります。
第三の課題は「リサイクルによる持続的な循環型社会の構築」です。
当業界は長年にわたる製錬技術の蓄積によって既存インフラを有効活用し、様々な産業で発生したスクラップのリサイクルを積極的に実施すると共に、産業廃棄物の無害化を行うことで、循環型社会の構築と環境負荷の低減に取り組んでまいりました。
サーキュラーエコノミーが持続可能な社会構築のために不可欠なアプローチとされる中、国内非鉄製錬所は重要鉱物のサプライチェーンの要として、ベースメタルを安定供給すると共に、国内製錬ネットワークを活かしてレアメタルやマイナーメタルを副産物として回収し、さらにはリサイクルによって資源循環を行う重要な役割を担っております。また、リサイクル原料は貴重な国内資源として、サプライチェーンの強靭化や経済安全保障の観点からも重要性が増しております。加えて、電気自動車に利用されるLiBのリサイクルの必要性は、日々高まっていると認識しております。
このような動きに呼応する形で、既に会員社においてはリサイクル金属ブランドの立ち上げ、銅産業の責任ある生産活動をESGの観点で保証する国際的な枠組みの下での認証取得等に取り組むと共に、車載用LiBリサイクルの事業化に向けた動きを活発化させております。これらの活動がこれまで取り組み続けているリサイクル原料の処理促進や技術開発の成果と相乗効果を生み出して、サーキュラーエコノミーの構築に貢献できるものと考えており、今後もさらにその歩みを進めてまいります。そのためにも、リサイクルの拠点整備やネットワークづくりの支援、産業廃棄物の収集から処分に至るまでの、現行制度の実態に即した改善・整備などを引き続きお願いしていく所存です。
また、 当協会内に設置した「カーボンニュートラル推進委員会」を「グリーントランスフォーメーション推進委員会」に改編し、GXの実現に向けて、より幅広く活動を推進する体制へと強化しました。産官学等の外部関係者との連携強化をはじめ、GXに関する会員会社間の情報共有、業界や会員会社のGXに関する活動の情報発信などを推進していきます。
第四の課題は「人材確保と育成の強化」です。
非鉄金属素材へのニーズは経済安全保障等の観点から高まっている一方、少子化が進む中で我が国の大学や大学院における冶金・資源関連のカリキュラムは減少し、当業界の将来を担う人材の不足が顕在化しております。これらに対して、会員各社は大学の寄付講座開設や共同研究を通じた産学連携を積極的に進めております。当協会としても、日本鉱業振興会や資源・素材学会と連携しながら研究費の助成を行うと共に、全国鉱山・製錬所現場担当者会議等の定期的な技術交流や発表の機会を設けて、技術力の維持や向上、そして高度人材の輩出に注力してまいります。また、科学技術館のメタル・ファクトリーや、昨年から開始した「銅の日」の開催等を継続して、若い世代に当業界の魅力を発信してまいります。さらには女性の活躍推進を目指して開催した、「非鉄DE&Iフォーラム」の活動を通じて、非鉄金属への裾野が広がるように取り組んでまいる所存です。
これと合わせて、産学官連携による技術開発の推進と人材育成に向けて、資源・製錬分野の人材確保のための支援システムの構築、及び各種育成支援を、国や関係機関に引き続き要望してまいります。
このほか、安全対策の推進、休廃止鉱山管理を含む環境・保安対策の充実など非常に重要な課題であり、引き続き適切に取り組んでまいります。
これから1年間、会員各社のご理解とご協力をいただいて、これらの諸問題に全力をあげて取り組んでまいる所存ですので、関係各位のご指導とご支援を重ねてお願い申し上げて、私の就任のご挨拶とさせていただきます。
以上